※公安捜査2課の資料より抜粋
事の発端は列島聖暦3420年、1月7日のことだ。
熊葉村の駐在所に最初の犠牲者「●●●●」(伏せられている)が腕がない状態であらわれた。
被害者はその47分後、熊葉北病院で息をひきとったがそのあいだの供述で事件として当局に報告された。(報告書ー熊76葉77乙745番などの別資料参照のこと)
この案件は当初、純然たる殺人事件として取り扱われるものの4月に急展開を見せる。
熊葉北病院の医師より、●●●●と同じ外傷を持ち、同様の供述を述べていたとの情報がもたらされたのである。
また、●●●●の司法解剖の結果に虚偽の疑いがかけられたのも、この医師によるものである。
当初の死因は「頭蓋骨側頭骨部亀裂骨折」で外部から側頭部へ、非常に強力な力を加えられたものと見られていたが解剖時に採取された組織標本を治療魔術(メディカル)遣いの●●(伏せられている)が第三層残留魔力検査を行った結果、強力な魔術による「内部からの頭蓋骨破裂」であったことが判明。
当局はこの一連の被害者を殺害した者が異変体{バグ}であるとの見方を強めていたが、対策本部と上層部の連携がうまくいかず捜査を続行していた。
その結果、熊葉村四●●番●●区●(伏せられている)の双子が被疑者であるとの結論が導かれた。
この時点で当局はそれ以上の捜査を断念し枢密院へと委譲するしかなくなっていた。
周辺住民への慎重な勧告へとその役目を移すこととなる。
なお、この案件による被害者総数は把握されているものだけで8名にもおよんでいる。
〜これより担当刑事が記したと思われる手記より引用〜
列島聖暦3422年8月、硬膜より内側、しかも他人への魔術干渉を行い、これを破壊する魔術遣いがふたたび2名の死者を出した。
9月に入り、昼間に天空を貫いた巨大な「闇色の魔力砲」が目撃され、同日深夜枢密院より長らく地元住人を脅えさせていた犯人は死んだとの報告が入った。
犯人は我々が捜査上あげた容疑者の双子であり、死体以外の遺留品と事後処理は同僚がひきうけることになったようだ。
公言されてはいないが、二年前に枢密院へと管轄が移された事件だとわかったおれは、密かに戦闘魔術に造詣が深い友人と会って話を訊いてみることにした。
その友人いわく、他人の頭蓋骨内部に直接干渉し、かつ物理破壊をともなう効力を持たせるなど異変体{バグ}以外に考えられないとのこと。
当時おれたちも似たような結論を出したが、それ以降の心象は違ったものだった。
まず双子はおよそ異変体{バグ}のなかでも、対敵に、戦闘に優れた能力を持ち、現在わかっている特殊魔術遣いに分類されていないのなら並みの監視者{デバッカー}では太刀打ちできなかったろうと言い出したのだ。
続けて友人は、双子が殺害に遣った魔術の質を上回った者の情報まで教えてくれた。
なんと、双子を処理したのは、双子と同年代である十代の少年であるというのだ。
そしてこの事件を境に少年には字{あざな}まで設けられたらしい。
――無慈悲の大砲遣い(マーサレスカノンウィザード)――
おれは、これ以上首をつっこまないことに決めたが誰かが読むかもしれないこの日記には書いておこうと思う。
異変体{バグ}は、本当に恐ろしい。