ちいさな牙と調教師
story
長い髪をまとめながら、彼女はためいきをつく。
「……今日は……あ、そういえば――」
――自分に物事を教えるという立場の人間が館をおとずれるはずだ。
レナ――Renate Armhold(レナーテ・アルムホルト)は、
いつものように館のなかでとくになにもしない日常を送る。
少女にはなにもするべきことがなく、
ただそうするしかない日々ではあったが、
人との関わりあいが得意ではない彼女にしてみれば
経済的に不自由のないその館での日々はけして悪くない。
さて、
少女はまだ予感すらなかったが、
いや、少女だからこそか、
大人たちに、ちいさな処女(むすめ)が翻弄される
――そんな屈辱と汚辱と、ほんのすこしの悦びが本能(すべて)を飲み込む日がおとずれようとしていたことを少女はまだ知らない。
ある教師(おとな)を迎え入れる日、
そう、この日だ。
少女は調教師(おとな)のものとなることが決定していた――
知らず、彼女は門にたつ者を気づかれないように眺める。
「なによあれ……男……じゃないのっ」
父から聞いていた話と違う。
同性ならまだしも異性に教わるなど、考えられなかった。
その男は後にレナの前でこう名乗る。
――調教師なのだ、と
ちいさな牙と調教師2
story
少女と、少女の調教をしていた男は、
とある館で幾日か過ごすこととなった。
開放的かつ閉鎖的な環境で、
レナの前にもう一人の少女が現れる。
その名は――
クラーラ・ベルンシュタイン(通称:クララ)。
彼女はレナの前には姿を現していなかった、
男、エドガーの手下(女)である。
しかも過去、失敗したとはいえエドガーに
調教された少女であり、現在はエドガーの下で
仕える少女構成員(リトルエージェント)。
熟した果実のように甘く腐ったおかしな気分になりながらも
少女はご主人様の何かになりたい――
漠然と、そんなことを考えていた。
他方――すでに「仕事」をしているクララもまた、
かけがえのない少女(幼女)が姿を消してしまったためか
調教師の男とレナに……
いま、三人の、
淫らで、おだやかな日々が始まろうとしていた――